わたしと女子プロレス 5

この頃、ちょっと焦ったことがあった。
8月23日のDDT両国国技館の興行に、里村選手が出ることが発表されたのだ。
デカい会場とはいえ、人気のDDTである。
あわててコンビニに行って、チケットを検索すると、二階の一番うしろの席がギリギリ取れた。

この日の里村選手は、トリプルタッグマッチで天龍源一郎選手と戦った。
天龍源一郎選手は、とにかく大きい。
もともと身長が大きくない里村選手と並ぶと、体格差がえげつない。
天龍選手にバーン! と平手ではたかれると、里村選手の身体が飛ぶ。
何度でも立ち上がり、雄叫びを上げながら天龍選手に突っ込んでいく里村選手。
ヒグマに向かっていく土佐犬のような、すさまじい姿だった。
はたかれ倒れる里村選手を観るのは悔しくて、強く拳を握りしめていたが、
里村選手が、これほど圧倒的に強い相手と戦っているということがスリリングで、高揚した。
女子で、あの天龍選手を相手に、こんなにビリビリと緊張感が伝わってくる試合を、里村選手はしている。

それを観ている間、周りのことは、すべて消えてしまった。
腹の底から振り絞った里村選手の声を聴きながら、彼女の身体が何度もリングに落ちる音を聴きながら、
里村選手の名前を呼んだ。

トリプルタッグマッチだから、そんなに長い時間ではなかったはずだった。
でも、おそらく観た人に強烈な印象を残す、濃厚な時間だった。
強い相手に向かっていくとき、里村選手はいつも以上に輝くのだと思った。
それは本当に命の炎が燃えているのが見えるような瞬間だったのだ。