わたしと女子プロレス 4

7月30日。新宿FACEで、里村明衣子選手率いる女子プロレス団体・仙女(センダイガールズプロレスリング)主催の興行があった。
里村選手以外の仙女の選手を見るのは初めてで、わたしはこの日をとても楽しみにしていた。

この日、まずは仙女の橋本千紘選手がプロテストに合格したことが発表された。
ジャージ姿で初々しく発表する橋本選手は、まだとても素人っぽい。
真面目そうで、根が強そうな選手だ。

仙女の宮城倫子選手は、身体が横に太いわけではないが、妙に身体の迫力がある。

岩田美香選手は、可愛らしく細くて、動きが速い。
そして、仙女の大きな柱になっているのが、十文字姉妹と呼ばれる、仙台幸子とDASH・チサコのタッグである。
この二人はすごかった。
岩谷麻優・紫雷イオのタッグ、サンダーロックと対戦したのだが、十文字姉妹の骨が太い感じがするのだ。

感情むき出しにしながら空中に飛び続けるサンダーロックもすごかったが、十文字姉妹には貫禄があって、カッコいいのである。
何度でも観たいと思うような、面白い試合だった。

 

仙女のほかにも初めて観た選手がたくさんいた。

中でもすごかったのは、旧姓・広田さくら選手である。

広田さくら選手は出てくるなり、
「こら!  私のテーマソングちゃんと渡したのに何持ってくんの忘れてんだよ! なんか適当にかけてくれればいいっつったけどよぉ、これ井上貴子さんの曲じゃねーかよ!」
と言い放った。
正直、これも仕込みなのか何なのかわからない。

旧姓・広田さくら選手の対戦相手はアイガー選手だった。
アイガー選手は、各自ぐぐって欲しいが、顔を白く塗った……いや、顔が白い謎の生命体である。
謎の生命体であるがゆえか、唸り声や奇声を発することはあるが、基本、しゃべらない。
しゃべらないアイガー選手が、その不気味な姿で客席に降りると、悲鳴や笑い声が上がる。

このとき、広田さくら選手がどうしたかというと、アイガー選手に語りかける形式で、アイガー選手の心の声を代弁しながらひたすら実況をしたのである。
アイガー選手は、会場の中から子供を見つけ、驚かせて泣かせたかったようなのだが、平日の夜の新宿の興行に子供はほぼおらず、アイガー選手はうろたえていた。
「アイガー、少子化なんだよ! 子供いねえんだよ!」

広田さくら選手がそう言うと、客席から「お前が産めー」とのどかなヤジが飛び、すかさず「うるせー!」と答えたのち、リングサイドにいる仙女の選手たちに「お前らも笑ってんじゃねーよ! 彼氏作れ!」と八つ当たり。
とにかくリアクションが速く、トークのキレがすごい。
しかも、非常に肩の力が抜けている感じなのだ。

あの「お前が産めー」「うるせー!」のやりとりは、
のちに広田さくら選手が産休宣言のブログを書いたときに思い出されたが、
それでも、「お前が産めー」という、普通ならセクハラとか無神経とか言われそうな発言が、あたたかみをもって発されたもので、
それにすかさず「うるせー!」と答えたことで、さらに丸く収まってしまったことが、

わたしの中には、妙に印象的な出来事として残っている。

ひとつは「ここは、普通の場所とは違う」ということだったし、
ひとつは「ここは、正しい場所でなくてもいい」ということだった。

 

この日、里村明衣子選手は、中島安里紗選手とセミファイナルで戦い、勝利した。

わたしは試合が終わったあと、里村選手にブロマイドにサインをしてもらった。
「応援してます。仙台の20周年記念試合も観に行きます」

と言うと、
まっすぐ目を見て「ありがとうございます」と言われた。

仙女の選手がみんな、気持ちの良い試合をする選手たちだったこと、
とてもいい団体に見えたこと、
いろんなことで胸がいっぱいになって、普段なら電車に乗る距離を、長く歩いて帰った。
里村選手のテーマソングをiPhoneで聴きながら、いさましく歩いた。